column『基本理念を維持し、進歩を促す』ビジョナリーカンパニーから学んだこと。

『基本理念を維持し、進歩を促す』ビジョナリーカンパニーから学んだこと。

ロバート・N・ベラーとジム・コリンズ。

私たちは各社の「採用」「教育」「処遇」についてサポートを行っています。特に「採用」に関しては、サポートさせて頂いている企業のこれまでの歩みや歴史に焦点を当てながら、現在の働き手が求めるものを再評価し、それを『物語』ストーリーとして書き記すという独自の手法を採用しています。このアプローチによって、企業の過去と現在、さらには未来をつなぐ架け橋を築くお手伝いをしています。

この『物語』ストーリーとして書き記すという手法は、ロバート・N・ベラーの著書『心の習慣―アメリカ個人主義のゆくえ』に深く影響を受けています。この著作では、1620年にイギリスからアメリカ大陸に渡ったピューリタンが抱いていた共和主義的な精神が、現在のアメリカ社会にどのように息づいているかが語られています。ベラーは、共和主義的な精神が世代を超えて受け継がれている背景には、重要な教えや価値観を時代に合わせて捉え直し、学び直し、物語として伝え続けたことがあると述べています。

このように、大切な教えや想いを時代に合わせて改めて解釈し直し、現代に活かしていくことは、私たちのサポートの根幹となっています。『心の習慣』はその方法論を考えるうえで、私たちの仕事にとって重要な指針を提供してくれています。

また、私たちのもう一つの指針となっているのが、ジム・コリンズの『ビジョナリーカンパニー』から学んだ「基本理念を維持し、進歩を促す」という考え方です。これは、企業が長期的に成功を収めるためには、変わらない価値観や理念を守りながらも、時代や状況の変化に柔軟に対応し、進化していく必要があるというメッセージを含んでいます。

これらの考え方を基盤に据え、企業が抱える採用や教育、処遇の課題に対して、企業の持つ歴史や価値観を再評価し、未来への道筋を共に描くサポートを心掛けています。とくに採用の分野では、企業が新たな人材を迎え入れる際に、企業の歴史に基づいた理念や価値観を伝える『物語』ストーリーを構築し、それを適切な形で発信するサポートを行なっています。

私たちが目指すのは、企業が持つ固有の価値観を時代に適応させながら、未来に引き継ぎ、企業文化を継承していくことです。

「ビジョナリーカンパニー」の特徴。

『ビジョナリー・カンパニー』は、経営学者でありコンサルタントでもあるジム・コリンズが、6年間にわたる比較分析を経て執筆した著作です。この研究の目的は「真に卓越した企業と、それ以外の企業との違いはどこにあるのか」を明らかにすることにありました。著書では、卓越した企業の成功要因や、永続的に繁栄する企業文化の本質を捉えています。

「ビジョナリー・カンパニー」とは、単に経済的に成功している企業ではなく、業界内外で高い尊敬を集め、時代を超えて持続的に影響を与え続ける企業を指します。著書では、ビジョナリー・カンパニーを次のように定義しています。
ビジョンを持っている企業
未来志向の企業
先見的で革新性を持つ企業
業界で卓越した成果を挙げる企業
・同業他社や社会全体から広く尊敬を集める企業
・世界に大きなインパクトを与え続ける企業
これらの特徴を持つ企業は、短期的な成功にとどまらず、長期的に持続可能な価値を創出することができるとされています。

研究では厳密な基準に基づき、18社が「ビジョナリー・カンパニー」として選ばれました。これらの企業は、比較対象として選ばれた他社と比べ、長期的に卓越した成果を挙げ、社会や業界においても高い影響力を持っています。その中で、日本企業として唯一選ばれたのがソニーでした。

ソニーの創業者である井深大氏について、著者ジム・コリンズは次のように評しています。
井深大の最高の『製品』は、ウォークマンでもトリニトロンでもない。ソニーという企業そのものであり、その独自の企業文化である」。

これは、ソニーが生み出した製品の一時的な成功にとどまらず、企業そのものが長期的に存続し、環境変化に適応し続ける企業文化を構築した点を評価してのことです。また、著書では次のようにも述べられています。
「ウォークマンやトリニトロンといった製品はやがて時代遅れになる。しかし、ソニーの最大の貢献は、時代遅れにならない『伝統ある精神』を持つ企業を築いたことだ」。

ここで言及されている「伝統ある精神」とは、世代を超えて受け継がれる基本的価値観や、変化に柔軟に対応できる適応能力を指します。

『ビジョナリー・カンパニー』で提唱された原則は、現代のビジネス環境にも多くの教訓を与えています。特に、テクノロジーの進化やグローバル化が急速に進む中で、変化に適応しながらも、企業としての核となる価値観を保持し続ける重要性が改めて強調されています。短期的な利益を追求するのではなく、長期的な視点で企業文化を育み、持続可能な成長を目指すことが、卓越した企業への道であると示唆されているのです。

たとえカリスマ的な経営者が一代で大企業へと成長させたとしても、その成功が永続する保証はありません。人の寿命は有限であり、また、企業が生み出した優れた商品やサービスであっても、時代の変化とともに必然的に時代遅れとなる時が訪れます。しかし、そうした一時的な成功に依存せず、世代を超えて受け継がれる「基本的価値観」が組み込まれた企業は、真の「ビジョナリー・カンパニー」として、幾つもの時代を超え、同業他社や社会全体から広く尊敬を集め続ける存在となり得ます。

ここでの「基本的価値観」とは、企業にとって不変であるべき原則を指します。ジム・コリンズの定義によると、基本的価値観は次のような特徴を有しています。
・組織にとって不可欠で不変の主義
 基本的価値観は、企業がどのような時代にあっても守るべき原則であり、一過性の流行や外部環境の変化に左右されるものではない。
・一般的な指導原理から成る
 経営戦略やビジネス手法とは異なり、企業の行動を方向付ける指針として機能する。
・文化や経営手法と混同してはならない
 文化や具体的な手法は時代とともに変わるものですが、基本的価値観は不変でなければならない。
利益の追求や目先の事情のために曲げてはならない
 たとえ短期的な利益を犠牲にしてでも、基本的価値観を守る姿勢が求められる。

さらに、「基本理念」とは、「基本的価値観」に「目的」が加わったものを指します。
ジム・コリンズはこれを、企業の根本的な存在理由を示すものとして以下のように定義しています。
目的とは、単なるカネ儲けを超えた、企業の根本的な存在理由。地平線の上に永遠に輝き続ける道しるべとなる星であり、個々の目標や事業戦略と混同してはならないもの」。

「基本理念」は、次のような公式で表現されます。
「基本理念」=「基本的価値観」+「目的」

ビジョナリー・カンパニーとして紹介される企業は、時代の変化に適応しつつも、その「基本的価値観」と「目的」を守り続けた企業が多くあります。ソニーはその一例であり、創業者である井深大が掲げた「技術で世界を驚かせ、人々の生活を豊かにする」という理念を、世代を超えて受け継いでいます。

そして、ビジョナリーカンパニーであり続けるためには、次の2つの原則を徹底することが必要だと述べています。
従業員に基本理念を徹底して強化し、理念を中心に、カルトに近いほど強力な文化を生み出す」こと、
「目標、戦略、戦術、組織設計などで、基本理念との一貫性をもたせている」こと。

「基本理念」は企業の核となる価値観と目的を含むものであり、これを従業員一人ひとりに浸透させる必要があると主張されています。そのためには、組織全体で理念を強化し、場合によっては「カルト的」と表現されるほど強い文化を築くことが求められます。この文化は、組織の意思決定や行動指針を方向付け、長期的な存続の礎となります。

さらに、戦略、戦術、目標、組織設計といった具体的な方針は、基本理念に基づく一貫性を持たなければならないとしています。一貫性を欠いた経営判断は、企業の方向性を見失わせる原因となり得ると説いています。

著書で最も重要な主張のひとつが、「時間の経過とともに、文化の規範は変わる。戦略は変わる。製品ラインは変わる。目標は変わる。能力は変わる。業務方針は変わる。組織構造は変わる。報酬体系は変わる。あらゆるものは変わらなければならない。その中でただひとつ、変えてはならないものがある。それが基本理念である」。

「基本理念を維持しながら、進歩を促す。これこそが、ビジョナリーカンパニーの真髄である」
この言葉が示すのは、企業が不変の価値観を守りつつも、その他のすべての要素を進化させ、改善し続けるべきだということです。戦略や目標、商品やサービス、組織構造や人事制度といった具体的な要素は、時代の要請に応じて柔軟に変化する必要がありますが、進歩を促す方針は基本理念に基づき、一貫性を持たせなければならないとされています。

『ビジョナリーカンパニー』依拠しながら。

何を変えて、
何を残すか。

経営者の方々とお話をしていると、頻繁に行き着く問いがあります。それは「何を変え、何を残すべきか」という問いです。この問いは、多くの経営者にとって悩ましい課題でもあります。どのようにして答えにたどり着くかについては、さまざまなアプローチがあります。私たちはジム・コリンズの著書『ビジョナリーカンパニー』に依拠しながら、次のような提案をします。

「会社設立から現在に至るまで大事にしてきた『基本理念』は残し、それ以外の部分については、基本理念に則しながら変化を促す」

この考え方は、企業がその本質を守りつつも、変化に対応して成長を続けるための有効な指針となります。
基本理念は企業が持つ不変の指針であり、「基本的価値観」と「目的」から構成されます。基本理念は、創業者や歴代のリーダーが掲げてきた信念や価値観に基づいており、企業の存在意義や行動原則を表します。

しかし、多くの企業では、創業者や先代たちが書き記した「社是」や「社訓」が、十分に活用されていないことがあります。壁に掛けられている言葉として存在しているだけで、それが企業文化や行動指針に落とし込まれていないケースも少なくありません。

基本理念が組織全体に浸透しておらず、従業員が日々の業務で何を基準に判断すべきかが曖昧になることがあります。
社是や社訓を形式的なものとして捉えるのではなく、その背後にある価値観や目的を掘り下げ、企業の核としての基本理念を再確認することは「内省化」するとも言い換えられます。

企業が自らの歴史や価値観を見つめ直す作業は、一見シンプルなようで、実際には難しいものです。日々の業務に追われる中で、創業時の思いや、これまで大切にしてきた価値観を振り返る機会は限られます。また、客観的な視点を持ちにくいことから、過去から現在に至るまでの自社の歩みを正確に捉えることが難しくなることも少なくありません。

こうした課題に対し、私たちは各社の設立から現在までの歴史を『物語』ストーリーとしてまとめるアプローチを提案しています。この『物語』を綴る過程を通じて、企業がこれまで培ってきた「基本理念」を再確認し、さらに明確化することを目指しています。

採用活動の場面では、企業の基本理念を『物語』ストーリーとして伝えることで、求職者・応募者に対して、自身の働く価値観と企業が大切している価値観とのすり合わせの機会を提供できるようになります。求職者が企業の歴史や価値観と自身の価値観とに大きな齟齬がないかを確認できるため、労働条件面の比較だけではなく、企業固有の理念に共感する人材が集まりやすくなります。

  1. 私たちは『ビジョナリーカンパニー』の考え方に基づき、『物語』ストーリーを用いたアプローチで、企業が「基本理念」を維持しながら、進化し続けていけるようサポートしていきます。

【参考・引用元】
・『心の習慣―アメリカ個人主義のゆくえ』ロバート・N・ベラー他(1991)
・『ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則』ジム・コリンズ他(1995)

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