多くの企業の中から「やりがい」のある会社だと感じる瞬間は、「面接」にある。
先のコラムでも紹介したように、新卒者が数多くの求人企業の中から「この会社に入りたい」と思う瞬間、つまり、自分にとって「やりがい」のある会社だと感じる瞬間が「面接」において訪れることが、長崎県の調査によって明らかになりました。
長崎県が2019年度から2022年度までの4年間にわたり実施した「大学生の就職意識アンケート調査」によると、2019年の調査時点で、大学生が就職先を選ぶ際に最も求めているのは、その仕事に「やりがい」を感じることだと分かりました。さらに、2020年度の調査では、大学生が求める「やりがい」とは何かについて詳細に調査されました。その結果、「やりがい」とは、「能力・知識を生かせること」「仕事を通じて自分の成長を感じられること」「社会に貢献していると実感できること」を指すことが分かりました。
この調査の特筆すべき点は、大学生が就職先の選定プロセスのどの段階で「やりがい」を感じるのかを明らかにしたことです。就職活動中に「やりがい」を感じた場面について尋ねたところ、「選考段階で、自分に関心を持ってくれていると感じたとき」が、3回の調査すべてにおいて最も多く挙げられました。この「選考段階」は、具体的には面接を指すと考えられます。
1990年代中頃から2000年代中頃までの就職氷河期においては、面接は企業が数多くの求職者・新卒者の中から「選ぶ」ための場としての意味合いが強かったようです。しかしながら、2010年代前期頃から求職者・新卒者の「売り手市場」が顕著になるにつれ、採用面接の意味合いも徐々に変化してきました。
現在では、面接において求職者・新卒者の入社意欲を損なわない工夫がなされています。さらに、長崎県の調査結果が示すように、面接は求職者・新卒者に対して「やりがい」のある会社であることを理解してもらう大切な場となっています。
近年の新卒採用市場では、複数の企業から内定を得ることが一般化しています。マイナビの調査によると、「その企業に入社したいと最初に思ったタイミング」として、「一次面接から最終面接受験時」を挙げる新卒者が多いことが明らかになっています。
また、新卒者の半数以上(55.8%)が「面接官とのやり取りを通じて、『ぜひこの企業に入社したい』と思ったことがある」と回答しています。これは、企業側がいかに「面接」という場を工夫し、魅力的な場にするかが、新卒者獲得の鍵となることを示唆しています。
「志望理由」が最も多くの企業で質問されている。
それでは、求職者・新卒者にとって「やりがい」を感じるための場と時間となっている採用・就職面接についての現状を見てみましょう。
株式会社学情が新卒採用を予定している企業の人事・採用担当者を対象に実施した調査によれば、面接において予定している質問項目は「志望理由」(72.9%)、「学生時代に力を入れたこと」(60.0%)、「どのような社会人になりたいか」(47.1%)、「アルバイト・サークルなどの経験」(44.3%)といった内容が上位にあげられています。
「なぜ当社を志望されたのですか」といった志望理由・志望動機を新卒者に尋ねるスタイルは(諸説ありますが)、1990年代前半のバブル経済崩壊後に、企業が採用予定人数を大幅に絞り、多数の就職志望者の中から少数を選抜する必要に迫られたことが背景にあるとされています。
志望理由・志望動機を尋ねることで、求職者がどの程度自社を調べ、就職に向けた準備をしてきたかを測るとともに、とくに長期勤続を前提とする日本企業では「長く勤められるか」を見極める意図がありました。長期勤続を前提としたジョブローテーションや複線型のキャリア形成は、日本における伝統的な雇用形態といえます。
また、日本企業では一度採用した人材を簡単には解雇できないため、会社が指定する業務を長期間にわたって遂行できる人材かどうかを見極める手段として、個人のモチベーションや動機づけを問う「志望理由」の質問が重視されてきました。
しかし、1990年代後半から2000年代前半にかけての「買い手市場」では、多くの企業が新卒者を「選ぶ」立場にありましたが、近年の「売り手市場」においては、従来のように「志望理由」を尋ねることの意義が再考されるべき局面にあります。新卒者の多くは複数の内定を得ることが一般化しており、4月に入社する企業を慎重に「選ぶ」時代となっています。そのため、むしろ企業側が新卒者を貴重な人材として迎え入れたいと考えているかどうかを、新卒者自身が見極めるケースも増えてきました。
このように労働市場の構造が変化し、企業が新卒者・求職者に「見極められる」立場となった現在、面接のあり方も変わる必要があります。特に、面接での質問は、新卒者や求職者が「やりがい」を感じられる内容であることが求められそうです。
最も多くの新卒者が面接でアピールしたいことは「学生時代に力を入れたこと」
次に、新卒者・求職者が就職面接において伝えたいこと、アピールしたいこととはどのような事柄なのかを見てみましょう。
株式会社学情の調査によると、面接で最もアピールしたいこととして多くの新卒者が挙げたのは「学生時代に力を入れたこと」(53.8%)でした。これに続き、「アルバイト経験」(44.6%)、「高校時代に力を入れていたこと」(22.9%)が挙げられています。
一方で、採用担当者の7割以上が面接で質問する予定である「志望理由」については、新卒者にとってアピールしたいことの上位には入っていません。「志望理由」をアピールしたいと回答したのは18.5%にとどまっています。また、採用担当者が面接で質問する予定の上位3番目である「どのような社会人になりたいか」(47.1%が質問を予定)についても、アピールしたいと考えている新卒者は17.2%にとどまり、採用側と求職者の間で「聞きたいこと」と「アピールしたいこと」にギャップがあることが分かります。
これまでの労働市場では、多くの応募者の中から採用者を選ぶことができ、内定を出した新卒者の多くが4月にそのまま入社するという状況でした。そのため、企業が「聞きたいこと」を質問し、新卒者が事前に準備した内容を答えるスタイルが一般的でした。しかしながら、現在は「売り手市場」へと変化し、企業側が選考を行うだけでなく、新卒者にとっても面接が「やりがい」を感じる重要な時間であることが認識されるようになっています。この変化に伴い、企業は面接において応募者に「やりがい」を見出させる内容や質問を工夫することが求められています。
その意味では、新卒者がアピールしたいと考えている「学生時代に力を入れたこと」や「アルバイト経験」をあえて質問することで、面接を通じて「この会社に期待されている」という感覚を持たせる工夫が効果的といえるでしょう。また、「学生時代に力を入れたこと」を面接担当者が上手に引き出し、自社での活躍イメージを深めるプロセスとして「面接」を再定義することも重要です。
そう考えると、新卒者があまりアピールしたいと考えていない「志望理由」を、やりがいを感じさせる場である面接において必ずしも問う必要があるのか、社内で再検討することも有益かもしれません。「志望理由」を問わなくとも、自社への志望順位や長期的なキャリア形成について推し量る方法は他にも考えられるでしょう。
多くの企業の中から「やりがい」のある会社だと感じる瞬間は、面接の場であることを念頭に置き、新卒者がアピールしたいポイントを質問し、それを自社の仕事に関連づけて確認することで、「この会社なら自分の能力を活かせる」と感じてもらうことができます。このような取り組みが、現在の「売り手市場」を勝ち抜く一つの方策といえそうです。
【引用・参考文献】
・「EBPMのための統計データ採取と利活用について 大学生の就職意識アンケート調査分析結果 (2019年度~2022年度)」長崎県統計課(2023)
・「マイナビ2024年卒学生就職モニター調査 6月の活動状況」(2023)
・「面接に関するインターネットアンケート」株式会社学情(2023)
・「2025 年 3 月卒業(修了)予定の大学生・大学院生対象インターネットアンケート」株式会社学情(2024)